裁判所に提出する書類の作成は、司法書士に法律で認められた主要業務の1つです。よって、司法書士は個人民事再生・自己破産の申立書の作成や、裁判所への提出を代行することができます。

けれども、司法書士がおこなえるのは書類を作成して裁判所へ提出することであり、弁護士のように申立代理人となって個人民事再生・自己破産の手続きができるわけではありません。

司法書士が書類作成をおこなった場合でも、法律上の位置付けは「本人による申立」となります。そのため、弁護士が申立代理人となっている場合と違って、申立人自身が対応しなければならない場面が出てきます。

結論から申し上げると、個人民事再生や自己破産の申立をするに当たって、「司法書士なら出来るけれど、弁護士には出来ない」ということは存在しません。したがって、個人民事再生や自己破産の手続きはすべて弁護士に依頼すれば問題ないわけです。

それでも、司法書士であっても10数年以上に渡って、個人民事再生や自己破産の申立を業務としておこなっている事務所もあります。

松戸の高島司法書士事務所でも、2002年の開業当初から自己破産申立書の作成等に積極的に取り組んでおり、2017年末までに個人民事再生と自己破産の合計で190件以上の裁判所申立をしています。

なぜ、当事務所のように個人民事再生や自己破産の申立を多数取り扱っている司法書士事務所が存在するのか。そして、実際に弁護士でなく司法書士に手続きを依頼する方が少なからずいるのか。

ここでは、15年以上に渡って債務整理の手続きに積極的に取り組んでた司法書士として、私見を交えてその理由を書いてみることにします。

司法書士に個人民事再生・自己破産を頼むメリット
1.司法書士の方が費用が安いことが多い
2.司法書士の方が身近に存在している
3.弁護士に頼むのが難しい時代もあった
4.司法書士による自己破産申立書作成等の今後について
5.司法書士の業務範囲について

1.司法書士の方が費用が安いことが多い

司法書士に個人民事再生・自己破産の申立手続きを依頼する最大のメリットとしては、弁護士に依頼するよりも司法書士の方が費用が安いということでしょう。

松戸の高島司法書士事務所では、自己破産申立(同時破産廃止の場合)の司法書士報酬は216,000円です。また、個人民事再生の司法書士報酬は270,000円で、住宅ローン特則を利用する場合でも同額としているのが通常です。

この費用は裁判所提出書類の作成費用としていただくもので、それ以外に成功報酬等をいただくことはありません(過払い金の返還を受けた場合の過払い金返還報酬を除く)。

上記よりも費用が安い弁護士がいるならば、そちらに頼んだ方が代理人を立てられるという点で安心かもしれません。しかし、当事務所よりも費用が安い弁護士はなかなか見つからないと思われるので、費用を取るか、代理人が付くという安心感を取るかとの選択になるでしょう。

ただし、当事務所のように長年に渡って個人民事再生・自己破産の申立に携わってきた司法書士事務所であれば、司法書士が書類を作成しての本人申立で問題ないケースと、弁護士を代理人にした方がよい場合との判断が多くの場合で可能です。

そして、弁護士に頼んだ方が良いのに、無理やり司法書士である自分自身が依頼を受けるようなことはありません。弁護士に依頼した方が良いときはハッキリとお伝えしますし、どうしてもやって欲しいと頼まれたような場合を除いては、弁護士に依頼するようご案内しています。

つまり、司法書士が書類作成をしての本人申立で問題ないと判断した場合にのみご依頼を受けるのが大原則であり、その場合においては弁護士よりも安い費用で、特に問題が生じることもなく手続きをおこなえるというわけです。

それでも絶対に安心な方が良いという方は経験豊富な弁護士に依頼してください。しかし、15年以上の間に約200件の個人民事再生・自己破産申立てをおこなってきた司法書士に依頼するとの選択もあるわけです。

なお、ここで書いているのは当事務所の場合であり、弁護士に任せた方が良いと思われるケースであっても自分で処理しようとする司法書士もいるかもしません。しかし、そのようなやり方では、多数の業務の一つ一つを長年に渡って無事に完了させられているとは思えません。

心配であれば、個人民事再生・自己破産申立の経験がどれくらいあるのかを依頼する前に確認してみた方が良いかもしれません。

2.司法書士の方が身近に存在している

当事務所のある松戸市などの大きな街であれば、弁護士も司法書士も大勢いますからどちらにでもすぐに相談することができるでしょう。

しかし、現在では弁護士の人数が大幅に増えたことにより解消に向かっているとはいえ、地方では弁護士がいない(または、町や村に1人しかいない)という地域があります。

本来は弁護士が全ておこなっても問題ない業務を司法書がおこなっているというのは、司法書士がそのような弁護士へ依頼するのが難しい場所に住んでいる方向けに法的サービスを提供してきたという歴史的な背景もあります。

ちょっと例えは違うかもしれませんが、大きな病院など何時間もかけなければ行けないような場所にある、村の小さな診療所が患者を救おうと何とか努力してきたというようなイメージでしょうか。ちょっと身の丈を超えてしまうような仕事であっても、自分が何とかするしかない場合もあるということです。

いくら人助けだからといって一般の方がするのは駄目ですが、司法書士には裁判所提出書類作成を業務としておこなう権限があります。そこで、法律上の制限の中で多重債務の状況にある人を何とか救おうと努力してきたのです。

3.弁護士に頼むのが難しい時代もあった

今でこそ、ホームページを開設して誰からでも広く相談を受け付ける、弁護士の事務所が数多く存在するようになっています。しかし、私が事務所を開業した頃である15年ほど前には、人からの紹介など無しに弁護士へ相談するのは難しいと思われていた時代でした。

実際、ホームページを開設している弁護士など殆どありませんし、そもそも何のツテもない一見さんが弁護士に自己破産の相談に行くというのは相当にハードルの高い行為だったと思われます。そして、仮に依頼を受けてくれるとしても、弁護士費用の相場は今よりかなり高かったはずです(自己破産やその他の債務整理手続きは手間がかかるばかりで儲からないからやりたくないと考える弁護士が大多数だったはずの時代です)。

そこで、弁護士よりは敷居が低いと思われる司法書士が、弁護士よりも安い費用で自己破産申立書の作成などをおこなうというのは自然な成り行きだったともいえます。弁護士の仕事を奪うために、司法書士が安い費用で自己破産申立書の作成をし始めたなどということでは決してありません。

ただし、現在では弁護士に相談するのは容易なこととなっていますから、個人民事再生や自己破産の申立はすべて弁護士に依頼するべきだという考えもあるでしょう。

しかし、当事務所が設定する司法書士費用であっても、用意するのがなかなか難しい方が多いというのが現実です。全て弁護士に依頼すべきだといっても、当事務所と同程度の費用で依頼を受ける弁護士が増えないことには難しいでしょう。

4.司法書士による自己破産申立書作成等の今後について

ここまで書いてきたとおり、弁護士に自己破産申立などの債務整理手続きを依頼するのが容易でなかった、10数年前から事務所を構えている司法書士事務所の中には、個人民事再生・自己破産を現在も積極的に取り扱っているところが数多くあります。

しかし、近年に新たに開業した司法書士事務所では債務整理業務を取り扱っていないというところが多いと思われます。今では、債務整理や過払い金請求の業務は大きな事務所が大々的な広告宣伝をおこなうようになっているため、街の小さな司法書士事務所へ相談や依頼のあるケースは激減しているはずです。

よって、新規開業する司法書士にしても依頼が殆ど無く、また、独立前に勤務していた司法書士事務所でもほとんど取り扱いがなかった債務整理業務を新たに行おうとする人は少ないのでしょう。

当事務所のように10数年前から債務整理業務をおこなっている司法書士でも、以前よりご依頼や相談は減っているところが多いものと思われます。それでも、少しでもご相談・ご依頼があるうちは業務として取り組んでいるというわけです。

したがって、債務整理業務を得意とする司法書士というのは、司法書士事務所の中でもごく一部の少数派であるわけですが、逆説的な言い方をすれば「債務整理を積極的に取り扱っている司法書士の多くは、債務整理についての業務経験が豊富である」場合が多いといえます。

個人民事再生・自己破産は経験豊富な弁護士に依頼するのがベストであるのは間違いの無いところとして、そのような弁護士を見つけるのが困難なときには、「経験の少ない弁護士よりは、経験豊富な司法書士を選ぶ」という選択肢もあり得るでしょう。

経験豊富な司法書士の方が、経験少ない弁護士よりも大幅に費用が安いというような場合であればなおさらのことです。

5.司法書士の業務範囲について

裁判所に提出する書類の作成は、全ての司法書士がおこなうことができますが、債権者に債務整理の受任通知を送ることができるのは法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)に限られます。

よって、認定司法書士でない司法書士に個人民事再生・自己破産を依頼した場合、裁判所への申立をするまで債権者からの督促を止めることができないなどのデメリットがあります。

また、認定司法書士であっても、元金が140万円を超える債権者との間で依頼者の代理人となって和解交渉等をすることはできませんが、裁判所提出書類の作成に関しては債務の額に関わりなくおこなうことが可能です。