給与所得者等再生では、「計画弁済総額を可処分所得の2年分以上にしなければならない」との要件(可処分所得要件)があります。この可処分所得額は、再生債務者の手取収入の額から、最低生活費をマイナスすることにより算出します

このページでは、可処分所得額を計算するための、最低生活費、手取収入額、それぞれの算出方法を解説しますが、司法書士にご依頼くださればすぐに計算できますから、ご参考としてご覧くだされば結構です

1.最低生活費の算出

再生債務者の1年分の最低生活費は、個人別生活費世帯別生活費冬季特別生活費住居費および勤労必要経費を合計した額です。

それぞれの金額については、「 民事再生法第二百四十一条第三項の額を定める政令 」で定められています。なお、この政令は一見すると難しそうですが、住んでいる場所や、家族構成に応じて、該当するものを選ぶだけなので、よく見ればとくに難しいことは無いはずです。

ここでは、千葉県松戸市に住む夫婦と子1人の3人家族(夫42歳、妻39歳、子15歳)を例とし、千葉県柏市、東京23区に住んでいる場合についてもあわせて解説します。

1-1.個人別生活費

個人別生活費は、再生債務者および被扶養者の一人ずつに、居住地域や、年齢の区分に応じて定められている額の合計です。居住地域は第1区から6区まであって、最も都市部である第1区の個人別生活費が一番高くなっています。また、年齢では育ち盛りの14,15歳と、70歳以上の高齢者がとくに高いです。

千葉県松戸市は居住区分「第2区」なので、それぞれの個人別生活費は次のとおりです。

夫(42歳) 456,000円、妻(39歳) 477,000円、子(15歳) 574,000円
個人別生活費の合計 1,507,000円

なお、居住区分「第1区」である東京23区の個人別生活費の合計は1,578,000円、千葉県柏市は「第3区」なので1,437,000円です。東京23区はまだしも、松戸市と柏市の居住区分が違うのは変な気もしますが、現行の政令ではそう定められています。

1-2.世帯別生活費

世帯別生活費の額は、再生債務者の居住地城と、再生債務者および被扶養者の合計人数により決まります。

居住区分「第2区」の松戸市で、3人家族の場合の世帯別生活費は618,000円です。

なお、居住区分「第1区」の東京23区では647,000円、「第3区」の柏市では588,000円が世帯別生活費となります。

 1-3.冬季特別生活費

冬季特別生活費の額は、再生債務者の居住地域、再生債務者および被扶養者の合計人数、冬季特別地域の区分により決まります。

冬期特別地域の区分とは、冬期に特別に寒い、北海道、青森県、秋田県が第1級地です。千葉県も東京都も、最も温暖な地域区分である第6級地となっています。

居住区分「第2区」、冬期特別地域の区分「第6級地」の松戸市で、3人家族の場合の冬期特別生活費は23,000円です。

また、居住区分「第1区」の東京23区で3人家族の場合は24,000円、居住区分「第3区」、冬期特別地域の区分「第6級地」の柏市では22,000円です。

1-4.住居費

住居費の額は、再生債務者および被扶養者が居住する建物の所在地域、その建物が所在する居住地域の区分、再生債務者および被扶養者の合計人数により決まります。

建物の所在地域は、一つの都県が全て同じ場合と、特定の市が別になっているものがあります。たとえば、東京都、千葉県は、それぞれが同一の所在地域ですが、北海道では、札幌市と、札幌市を除く北海道の二つに分かれています。

所在地域が「千葉県」、居住区分が「第2区及び第3区」の松戸市で、3人家族の場合の住居費は718,000円です。

住居費は、柏市も松戸市と同じ718,000円で、東京都は835,000円です。

ただし、住居費については、0円とされる場合、また、現実にかかっている住居費(家賃、住宅ローンの支払額)を、住居費とすることがあります。具体的には次のとおりです。

住居費が無い(0円)のケース
住居及び住宅ローンの状況 具体例
再生債務者が、居住している建物を所有せず、かつ、その建物の家賃を支払っていない場合。 親が所有する建物に親と同居していたり、親が所有する建物を無償で借りている場合。
再生債務者が、居住する建物を所有し、かつ、その建物についての住宅資金借入債務(住宅ローン)が無い場合 持ち家(一戸建、マンション)で、住宅ローンが無い(または住宅ローンの支払いが終わっている)場合
実際の支払額を住居費とするケース
住居及び住宅ローンの状況 具体例
再生債務者が住んでいる住宅が賃貸(貸家、マンション、アパート等)であり、その1年分の家賃が、政令で決まっている住居費より安い場合 現実の1年分の家賃相当額を住居費とする
再生債務者が、居住する建物を所有し、かつ、その建物についての住宅資金借入債務(住宅ローン)があるが、その1年分のローン支払額が住居費より安い場合 現実の1年分の住宅ローン支払額を住居費とする

1-5.勤労必要経費

勤労必要経費の額は、再生債務者の収入が勤労に基づいて得たものである場合、再生債務者の居住地域の区分と収入額に応じて決まります。

また、再生債務者の収入が勤労に基づいて得たものでない場合には、勤労必要経費の額はないものとされます。

居住区分「第2区」の松戸市の勤労必要経費は555,000円です(年間の収入額が250万円以上の場合)。

居住区分「第1区」の東京23区も松戸市と同じく555,000円、また、居住区分「第3区」の柏市での勤労必要経費は505,000円です(年間の収入額が200万円以上の場合)。

1-6.最低生活費の額(上記の合計額)

  1. 個人別生活費 1,507,000円
  2. 世帯別生活費 618,000円
  3. 冬季特別生活費 23,000円
  4. 住居費 718,000円(政令による金額)
  5. 勤労必要経費 555,000円
  6. 合計 3,421,000円

上記により、千葉県松戸市に住む夫婦と子1人の3人家族(夫42歳、妻39歳、子15歳)の1年間あたりの最低生活費は3,421,000円となります。

また、同じ家族構成により計算すると、柏市では3,270,000円、東京23区では3,639,000円が、1年間あたりの最低生活費となります。

2.可処分所得額の計算

可処分所得額は、1年間あたりの手取り収入額から、上記の最低生活費をマイナスした額です。手取り収入額を計算するには、源泉徴収票、課税証明書(住民税証明書)がそれぞれ2年分必要です。

2-1.1年間あたりの手取り収入額の計算

  1. まずは、過去2年間の収入合計額を算出します。これは、税金等を控除する前の総収入額であり、源泉徴収票では「支払金額」の欄にある金額です。
  2. 次に、過去2年間の収入合計額から、過去2年間の所得税相当額、過去2年間の住民税相当額、過去2年間の社会保険料相当額をマイナスしたのが、2年間の手取り収入額です。
    • 所得税相当額 源泉徴収票の「源泉徴収税額」
    • 住民税相当額 課税証明書(住民税証明書)の「年税額」
    • 社会保険料相当額 源泉徴収票の「社会保険料等の金額」

    源泉徴収票、課税証明書(住民税証明書)の作成者により、項目名が少し異なる場合もありますが、いずれも源泉徴収票、課税証明書(住民税証明書)の中に、必ず記載されています

  3. 上記の金額を2分の1したのが、1年間あたりの手取り収入額です。

2-2.可処分所得額の計算

1年間あたりの手取り収入額から、1年間あたりの最低生活費をマイナスしたのが、1年間あたりの可処分所得額です。

上記により計算した1年間あたりの最低生活費が3,421,000円ですから、1年間あたりの手取り収入額が4,000,000円ならば、1年間あたりの可処分所得額は579,000円です。さらに、この2年分である1,158,000円が、給与所得者等再生における計画弁済総額の最低額となります。

この金額であれば、可処分所得要件以外の基準による計画弁済総額の最低額が1,000,000円だとすれば、再生計画案が否決される危険性を回避するために、給与所得者等再生を利用する価値は十分にあると考えられます。

しかし、1年間あたりの手取り収入額が4,500,000円だと、計画弁済総額の最低額は2,158,000円となります。これだと計画弁済総額の最低額が高額になってしまうため、小規模個人再生が選択されるケースが多いでしょう。

このように、収入に比べて扶養家族の数が少ない(扶養家族がいない)場合には、計算上の可処分所得額が大きくなりがちなため、給与所得者等再生の利用が難しいことが多いといえます。