法定相続人は、被相続人が残した借金の支払い義務を引き継ぎます。この借金の支払い義務から逃れるためには、家庭裁判所で相続放棄の手続きをするしかありません。

ここで注意すべきことがあります。相続放棄をした人は、その被相続人の相続については、最初から相続人で無かったものとみなされます。したがって、被相続人の財産の処分をすることも出来ません。

たとえば、被相続人が保有していた銀行預金や現金などの財産により、被相続人名義の借金返済をするのも駄目です。

被相続人名義の財産で、被相続人の借金を支払うのだから問題は無いと思われるかもしれませんが、このような行為は、民法921条1項に定められた「相続財産の処分」に当たります。

相続財産の処分をすれば、自動的に相続を単純承認したものとみなされてしまいます。そのため、その後に相続放棄をすることは許されないのです。

相続財産の処分とみなされない場合

預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からないまま、遺族がこれを利用して仏壇や墓石を購入したことが「相続財産の処分」当たらないとされた裁判例があります(平成14年7月3日 大阪高等裁判所 決定)。

上記のようにして仏壇や墓石を購入することは自然な行動であり、また、本件において購入した仏壇及び墓石が社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、それらの購入費用の不足分を遺族が自己負担としていることなどからすると「相続財産の処分」に当たるとは断定できないとされたのです。

相続人自身の財産による借金支払い

被相続人の財産によるので無く、相続人が自らの財産で被相続人の借金返済をした場合には、相続財産の処分に該当しないとのされた裁判例があります(平成10年12月22日 福岡高等裁判所宮崎支部 決定)。

被相続人の死亡により支払われた死亡保険金により被相続人の債務を支払ったケースについて「熟慮期間中の被相続人の相続債務の一部弁済行為は、自らの固有財産である死亡保険金をもってしたものであるから、これが相続財産の一部を処分したことにあたらない」とされたのです。